田川欣哉 デザインエンジニア

石川/金沢

「柳宗理のデザインプロセス」

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田川欣哉さんは、日本のプロダクトデザインの巨匠、柳宗理のデザインプロセスをリサーチ。柳が約50年にわたり教鞭をとった金沢美術工芸大学の大学附置施設である柳宗理記念デザイン研究所が舞台です。今回は数多くの〈普遍的でロングライフ〉なプロダクトを生み出した柳による、カトラリーのデザインプロセスを紐解きます。

デザインの宝物

カトラリーを例に

柳宗理は、戦後日本を代表するインダストリアル・デザイナーとして、生活用品から大型公共構造物まで手がけた人物です。1960年代に開催された世界デザイン会議やオリンピックのデザインにも参加。機能美と実用性を兼ね備えたデザインは、いまもなお世界中で愛され続けています。
柳のデザインは、タイムレスな良さを持ちます。そんなプロダクトの「完成品だけではなく、その途中、ものが生まれる瞬間みたいなところを見てみたい」という田川さんの思いから、このリサーチは始まりました。

ステンレスカトラリー 柳宗理 1974年

ステンレスカトラリー 柳宗理 1974年

クリエーター

田川欣哉

田川欣哉 デザインエンジニア

1976年 東京生まれ
デザイン、テクノロジー、ビジネスの幅広い分野に精通し、イノベーションやブランディングを多く手掛けるTakramの代表を務める。経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言の作成にコアメンバーとして関わった。主なプロジェクトに、日本政府の地域経済分析システム「V‐RESAS」のディレクション(2020‐)、メルカリのCXO補佐(2018‐2020)などがある。

画像提供 : 柳工業デザイン研究会

画像提供 : 柳工業デザイン研究会

1974年から発売されている、柳宗理が手掛けたステンレス製のカトラリーシリーズ。「日本人のためのカトラリー」をデザインして欲しいとの依頼からはじまりました。柳が最初に手掛けた、幅広い用途に使え日常使いにちょうど良い大きさの「デザートスプーン」から長い年月を重ね、数々の種類を展開し続けるロングライフデザインのプロダクトのひとつです。

ステンレスカトラリー デザートスプーン

ステンレスカトラリー デザートスプーン

〈手で考える〉が柳宗理のデザイン手法

柳のデザインプロセスをリサーチする中で、「完成品の手前側を共有する事で広がりが生まれ、新しい感覚で解釈し、次の世代につなぐことができる」と田川さんは話します。柳本人が試作した模型を見て、手遊びのように紙をいろいろ触って確かめながら考え、デザインを進めていたことを知りました。アウトプットしてみては、その精度を高める、その繰り返し。相当の観察眼をもって実践してきた柳宗理だからこそ到達し得たデザインだと納得します。
たとえばディナースプーンの製造プロセスでは、柳宗理と職人の間で「作っては見せ、ダメ出しを受けてまた作る」やりとりの連続。手に持ってしっくり来る感じ、柳の微妙な感覚を実現するのに苦労したそうです。

柳宗理も現役時代に使っていた工房 柳工業デザイン研究会

柳宗理も現役時代に使っていた工房
柳工業デザイン研究会

紙の手遊びから生まれた形

紙の手遊びから生まれた形

紙の手遊びから生まれた形

紙の手遊びから生まれた形

スプーンのプロトタイプを目の前に話す田川さん

スプーンのプロトタイプを目の前に話す田川さん

作り込まれたディティール、その絶妙なカーブ、口当たり

柳のステンレスカトラリーは一枚の板で出来ているけれど、ちょっとした返し部分のタッチや、食べる時の口当たりで味が変わることまで考えられています。五感の中で一番敏感な触覚に触れる〈口に入れるプロダクト〉は、目で見るだけではなく、実際に使って心地よいものでなければなりません。これは人間の身体性と関わり「使われてこそ」のものだから。田川さんは「この方法論は僕が手がけるデジタルのデザインに近い。作って、テストして、納得いくまで繰り返す。ユーザーの話すこと、使っているときの表情を観察。それを〈デザインに戻していく〉」と共感を覚えています。

ディナースプーンの製造プロセス 日本洋食器

ディナースプーンの製造プロセス
日本洋食器

①紙の模型を繰り返し作る

①紙の模型を繰り返し作る

②発泡スチロール模型で立体的にする

②発泡スチロール模型で立体的にする

③木の模型実際に使い心地を試し機能を確認できる

③木の模型実際に使い心地を試し機能を確認できる

柳宗理の創作の源、美意識と手

柳は「デザインによって作るのではなく、作ることからデザインが生まれる」と語っています。眼に映るものすべてが大切で、美意識が生活全体に投影されていました。〈確固たる美意識〉と〈手で考える〉こと、その両立が柳宗理の創作の源。さざなみのような表面的なものではなく、海の深度の深いところの海流のようなものがデザインに反映されているからこそ、時代を超える普遍性があるのだと田川さんは話します。

柳宗理が撮影した写真 画像提供:柳⼯業デザイン研究会

柳宗理が撮影した写真
画像提供:柳⼯業デザイン研究会

柳宗理の仕事場 画像提供:柳⼯業デザイン研究会
柳宗理の仕事場 画像提供:柳⼯業デザイン研究会

柳宗理の仕事場
画像提供:柳⼯業デザイン研究会

どこに行けばこのデザインの宝物に会える?

田川欣哉(デザインエンジニア) 「柳宗理のデザインプロセス」カトラリーを例に(金沢/石川県) DESIGN MUSEUM JAPAN展 集めてつなごう 日本のデザイン 国立新美術館 2022年

田川欣哉(デザインエンジニア)
「柳宗理のデザインプロセス」カトラリーを例に(金沢/石川県)
DESIGN MUSEUM JAPAN展 集めてつなごう 日本のデザイン
国立新美術館 2022年

柳宗理記念デザイン研究所

財団法人柳工業デザイン研究会より寄託された約7000点余りの柳宗理の作品や空間を通して、柳のデザインにおける考え・姿勢を知る常設展示室を公開している。

〒920-0902 石川県金沢市尾張町2丁目12番1号
開館時間: 9:30〜17:00
休館日: 月曜 ※月曜が祝日の場合は開館
利用詳細はホームページをご確認ください

柳宗理記念デザイン研究所

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