名久井直子 ブックデザイナー

山形/鶴岡・寒河江

「古代の糸 世界最先端の糸」

地図

名久井直子さんは、山形県で古代布のひとつである「しな織」と、独自の糸作りを追求し生み出された「超極細モヘア糸」をリサーチ。過去から未来へ紡がれる雪国の糸づくりから、糸の根源的なものが見えてきました。

デザインの宝物

雪国・糸作りのデザイン

鶴岡市関川集落で訪ねたしな織は、シナノキやオオバボダイジュの木の皮の繊維からつくられる伝統織物です。布の素材に恵まれなかった土地で、水に強く強靭な繊維で織られた布は、木綿普及以前は水辺の農作業着や漁網、酒造りの漉し袋などの生活用品として使われていました。
寒河江市に位置する紡績ニットメーカーは、古い機械を駆使して、ここでしか作れないユニークな糸作りに挑戦し続けています。世界最高水準の超極細モヘア糸もそのひとつ。
名久井さんは、古代の糸と世界最先端の糸が紡がれる現場へと訪れました。

クリエーター

名久井直子

Photo by Sayuki Inoue

名久井直子 ブックデザイナー

1976年 岩手生まれ
広告代理店勤務を経て、2005年より独立。2013年には、川上未映子「愛の夢とか」などの作品でブックデザイン賞を受賞。伊坂幸太郎、小川洋子、柴崎友香など数々の作家の小説をはじめ、絵本や歌集、漫画まで、幅広くデザインを手掛ける。2022年BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLDにてBronze Medal受賞。

新潟北部と山形の県境あたりの羽越地方に伝わる、しな織。集落の周辺にはあちらこちらに良質のシナノキが多く生育しています。木の繊維を採取してから糸を作り、布へ織り上げるまで一年近くかかり、その全てが手作業。四季折々の20以上の工程を経て、しな布へと仕立てられます。平成17年、「羽越しな布」として国の伝統的工芸品に指定されています。

羽越しな布

羽越しな布

寒河江市の紡績ニットメーカーが生み出す個性的な糸の数々。その始まりは、日本には元々飼育頭数の少なかった羊の毛でホームスパンの手編み・手織り用糸を作ることからでした。時代ごとの糸作りへの強い思いは継承され技術者たちを牽引し、現在は古い機械を積極的に手に入れて、新しい機械では作れない唯一無二の糸を編み出しています。

極細モヘア糸 紡績の様子

極細モヘア糸 紡績の様子

生活の一部をやめずにずっと続けていること

しな織をつくる山形県と新潟県の県境の山村、関川集落。冬には2mを超える雪が積もる豪雪地帯です。しな織は、長い冬場の女性の仕事として永年続けられてきました。一連の工程の中には力作業も多く、「地域の皆が協力しないと残していくことは難しい」と名久井さんは話します。20以上の工程を経て、一年がかりで木の繊維から糸を紡ぎ、布へ織り上げる。手間ひまがかかることを当たり前に、今も〈暮らしの中に組み込まれた時間〉として続けていることに、名久井さんは敬意を表します。

しなうみ 木の皮を裂いて撚り混んで長い糸にかえていく

しなうみ 木の皮を裂いて撚り混んで長い糸にかえていく

皮剥ぎ
水つけ
へぐれたて

皮剥ぎ(左)、水つけ(中央)、へぐれたて(右) 撮影:五十嵐丈

古い機械と"おつきあい"することで、よりすごいところまで持っていく

「世界に通じるものを編み出す創造的な仕事」に驚く名久井さん。こちらの工場では、60年以上前につくられた機械が現役で働いています。古い機械だからこそ改造ができ、世界の誰も作れないような糸づくりを実現。そのアグレッシブな姿勢が、モヘア1グラムを50メートル以上伸ばす、開発当時限界とされた細さの約1/2の極細糸を生み出したのです。「機械は調整する人の能力で、その道が変わる」と名久井さんは話します。機械と技術者が一体となり、古くからのものを生かし新しいものにしていく。〈よりちょっとよくしたい気持ちが生んだデザイン〉を目の当たりにします。

機械を調整する技術者

機械を調整する技術者

撚る前と撚って糸にしたわたを比べる名久井さん

撚る前と撚って糸にしたわたを比べる名久井さん

透けるほど薄く、軽く、暖かい極細モヘア糸のニット

透けるほど薄く、軽く、暖かい極細モヘア糸のニット

糸って根源的。それが一番強くて古びない。そこに包容力さえ感じる。

「自分の糸の概念は狭かった」と名久井さんは言います。名久井さんが普段の仕事で扱う紙も、平たくするか糸にするかの違いはあれど、元をたどれば同じ繊維。「細く作れるものであれば、木の皮からでも、羊からでも何でもいい。糸の根本は自由でいいんだ」と気付かされたのだそう。
厳しい冬が長いからこそ、ひたすら専念して向き合う山形の糸づくりから「ずっとしつこく残してきてることが根本にありつつ、一方ではその時々の人自身のものになってる」と感じています。

リサーチを振り返る名久井さん

リサーチを振り返る名久井さん

どこに行けばこのデザインの宝物に会える?

関川しな織センター

関川地区の「しな織」と伝統的工芸品「羽越しな布」の拠点施設。展示・販売スペースのほか、織り作業や加工・製作を間近に見学できる。

〒999-7315
山形県鶴岡市関川222
詳細はホームページをご確認ください

関川しな織センター

画像提供:関川しな織協同組合

GEA

衣・食・住、グローバルとローカルの枠を超えた多彩なアイテムが並ぶ、寒河江と世界をつなぐライフスタイルセレクトショップ。

〒991-0053
山形県寒河江市元町1-19-1
詳細はホームページをご確認ください

GEA

画像提供:佐藤繊維株式会社

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