スナックとは、一般的にカウンター越しに店主と客が対する飲食店で、お酒や軽食を楽しみながら会話を楽しむ場所です。店主と客の距離が程よく、親しみやすい雰囲気が魅力のひとつ。コンパクトながら、その店ならではのコミュニケーションを支える様々な要素がぎゅっと凝縮しています。
佐藤卓 グラフィックデザイナー
「スナック」

佐藤卓さんは、西日本きっての繁華街、宮崎市の西橘通り、通称「ニシタチ」でスナックをリサーチ。その魅力をデザイナーならではの目線で多角的に分析しました。
デザインの宝物
〈間〉をつなぐ本能のデザイン
クリエーター

佐藤卓 グラフィックデザイナー
1955年 東京生まれ
電通を経て、84年佐藤卓デザイン事務所設立(現・株式会社TSDO)。
「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」等の商品デザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館のシンボルマークデザインなどを手掛ける。また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」総合指導、21_21DESIGN SIGHTディレクター・館長を務める。

ニシタチの入り口にあるネオンサインをくぐると〈スイッチ〉が入ると佐藤さん
屋台文化をはじまりとして
現在ニシタチという愛称で親しまれているエリアは、西橘通りを中心に、中央通り、恵比寿通り、高松通り、西銀座通りなどを含めた一帯を指します。歓楽街として発展する前の昭和30年ごろは、屋台文化が根付いていたといいます。当時そのエリアにあった旧国鉄の所有地が払い下げられ、ビルが建てられました。屋台のオーナーたちがそのビルに入居したことで、集合飲食店街「安兵衛小路」ができ、それをきっかけに飲み屋が増えたのだそう。現在では1000店舗以上の飲食店がひしめく宮崎最大の繁華街です。

提供:宮崎市
実は見どころがいっぱいの看板
スナックの多くは雑居ビルに入っています。お客さんを誘導するための目印となる集合看板には、ビルごとにスタイルがあります。色や大きさにフォーマットがあるものもあれば、書体までも各店に任せて統一を図っていないものも。「どっちがいいとか悪いとかではなくて、いろんな考え方がある。色々なものが共存している〈わからない面白さ〉がある」と、佐藤さんは興味深そうに様々な看板を眺めます。

様々な看板を見るだけでも面白いと佐藤さん


看板のデザインからお店の様子を想像するのが楽しい
撮影:佐藤卓
お店に入る前の〈間〉
繁華街の通りから目的地のスナックがあるビルに入って行くと、奥へと店がずらっと続きます。店のひしめいている様子は、路地とはまた印象が異なり、アナグラのようだと佐藤さん。「狭い通路は空間の中に入り込んでいく気持ちにさせる」とその効果を分析します。

ビルのワンフロアに所狭しとスナックが立ち並ぶ
撮影:佐藤卓

扉にもそのお店のキャラクターが滲み出ている
コミュニケーションを生み出す様々なデザイン
お店に入ると、楽しく飲み語らうお客さんの姿。佐藤さんはカウンターの席に座ります。するとテーブルの高さや椅子の低さの絶妙な具合に気が付きます。お客さんと目線がうまく合うように設計したのだとマスター。「さりげないけれど、大切なこと」と佐藤さんは納得します。お店の「らしさ」はボトルの配置や装飾品や小物にも見ることができます。スナックという空間は「ママさんだったりオーナーだったりの人となりだと思う」と佐藤さん。そこで感じる安心感はスナックの魅力に繋がります。

マスターと目の高さを合わせて話のできるカウンター
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
ニシタチエリア
このエリアには、地元のグルメを出す居酒屋やバー、立ち飲み屋、焼肉やイタリア料理など、1,500件以上の飲食店が立ち並びます。ひとりでも気軽に入れるお店が多いのが魅力です。
宮崎県宮崎市の中心部にある西橘通りを中心に広がる
宮崎駅から徒歩で約13分

提灯がレトロな雰囲気を醸し出しています
画像提供:公益財団法人宮崎県観光協会