熊楠は生涯を通じ収集活動を続けました。幼い頃は事典や図鑑を描き写し、成長してからは菌類・植物・動物・鉱物などを標本として集めることで世界を把握しようとしました。今回、三澤さんの興味を特に引いた鉱物集蓄函は熊楠が10代後半に集めたとされる鉱物の標本をまとめたものです。
三澤遥 デザイナー
「南方熊楠コレクション」
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三澤遥さんは、和歌山・白浜にある南方熊楠記念館で博物学・民俗学における近代日本のパイオニアのひとり、南方熊楠(1867ー1941)のコレクションをリサーチ。
デザインの宝物
万物をフラットにみる収集のデザイン
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鉱物集蓄函
南方熊楠記念館
クリエーター
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三澤遥 デザイナー
1982年 群馬県生まれ
デザインオフィスnendoを経て、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動開始。ものごとの奥に潜む原理を観察し、そこから引き出した未知の可能性を視覚化する試みを、実験的なアプローチによって続けている。最近の仕事に、かつてない紙の可能性を探求した「動紙」( 2 018 )、国立科学博物館の移動展示キット「WHO ARE WE」(2021)、「玉造幼稚園のサイン」(2022)などがある。
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南方熊楠
画像提供:南方熊楠顕彰館
和歌山出身の熊楠は、幼少期から自然に強い関心を抱き、並外れた記憶力と好奇心で独学に励みました。中学入学後、万物を研究の対象とする「博物学」を志すようになります。大学予備門(現在の東京大学)に進学するも退学し、アメリカ、イギリスヘ渡り、独学を続けます。1900年に帰国後は、故郷に戻り、豊かな自然の中で植物採集・研究活動に没頭しました。科学雑誌「ネイチャー」に投稿した論文は、一研究者の掲載数として歴代最多と言われています。
十代の頃に「博物館を作る」と決めていた熊楠
熊楠による標本群の多様性を目の当たりにして「ちょっと珍しいものや、2度と出会えないと思うものへの好奇心・探究心がすさまじい」と三澤さんは驚きます。熊楠が10代に描いたとされる鳥の模写図を見ると、各グリッドに「鳥の姿」「名前」が記され、情報の見せ方に均一性を持たせようとする工夫が見られます。
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動植物模写図(動物・鳥類)
画像提供:南方熊楠記念館
一人の人間が生み出した、〈万物の新しい見方〉の形
熊楠による標本のなかでも一際存在感を放つのが菌類(きのこ)標本です。1900年頃に本格的にきのこの調査と図譜の作成を開始して以来、晩年まで作り続けました。『南方熊楠菌類彩色図譜』は、100点もの標本と手描きの図譜を組み合わせたもの。1ページごとに、実物の乾燥標本、熊楠による彩色スケッチと緻密な英文での観察記録、胞子の標本が収められています。「標本の立体感、ページをめくるたびに感じるパワー、においさえ感じる。対象にすごく寄った熊楠の眼差しが反映されている」と三澤さんは感動します。熊楠の独自のものの見方を「果てしなく長くて、ユーモラスでへんな形をしているかもしれない」と表現します。
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『南方熊楠菌類彩色図譜』を目の前に感動する三澤さん
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『南方熊楠菌類彩色図譜』 撮影:三澤遥
万物を〈フラットに見る視点〉
様々な種類の鉱物が収められた標本箪笥は、熊楠が特注したものです。引き出しの中の板の仕切りや、仕切り代わりの白い小さな箱も、熊楠が仕様を決めて作らせたものです。それぞれの収集物には、収集場所などの情報が書かれた小さな紙が付いています。その整理方法を見た三澤さんは、「地球の裏側から持ってきているものから、庭で見つかったものまで。何かにすごく意味があって何かに意味がない、のではない」と熊楠の全てを平等に捉えようとする視点を感じとります。
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本から熊楠による収集の特徴を見出すことができる
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「鉱物集蓄函」の一部 撮影:三澤遥
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
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三澤遥(デザイナー)
「南方熊楠コレクション」万物をフラットにみる収集のデザイン(白浜/和歌山県)
DESIGN MUSEUM JAPAN展 集めてつなごう 日本のデザイン
国立新美術館 2022年
南方熊楠記念館
南方熊楠の遺した偉大な業績をしのんで、その文献、標本類、遺品等を保存し、一般に公開している。
〒649-2211
和歌山県西牟婁郡白浜町3601-1
利用詳細はホームページをご確認ください
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南方熊楠顕彰館
南方熊楠邸の隣に建設された施設で熊楠が遺した蔵書・資料等を保存、公開し、熊楠に関する研究を推進、情報発信している。
〒646-0035
和歌山県田辺市中屋敷町36番地
利用詳細はホームページをご確認ください
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