博多祇園山笠で用いられる神輿を「山笠」と呼びます。かつては高さ16メートルにも及ぶ巨大な山笠が町中を駆け抜けていましたが、電線が架けられてからは、大きくて動かない「飾り山笠」と、比較的小さいサイズで町中を巡る「舁き山笠」とに分かれました。
廣川玉枝 服飾デザイナー
「博多祇園山笠」
廣川玉枝さんは、福岡で700年続く「博多祇園山笠」をリサーチ。博多祇園山笠は、博多の総鎮守である櫛田神社の奉納行事で、その起源は鎌倉時代にまで遡るといわれます。博多で疫病が流行った際、承天寺の開祖・聖一国師が町民の担ぐ施餓鬼棚に乗って祈祷水を撒き鎮めたのが発祥と考えられています。
デザインの宝物
更新されながら受け継がれる情熱の結晶
クリエーター
廣川玉枝 服飾デザイナー
イッセイ ミヤケを経て、2006年、複合的にデザインを手がけるSOMA DESIGNを設立。同時にデザインプロジェクト「SOMARTA」を立ち上げる。「身体における衣服の可能性」をコンセプトとし、無縫製ニットの技術を用いて第二の皮膚を体現した「Skin Series」は、レディ・ガガが着用し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されるなど世界的に話題を呼んだ。21年にはアシックスと共同で、東京2020オリンピック・パラリンピックの表彰台ジャケットを制作した。
人々の情熱が形になった博多祇園山笠は〈祈りのデザイン〉
舁き山笠は「舁く(担ぐ)」ための山笠です。街中を疾走できるように、飾り山笠よりずっと低いですが、総重量は約1トンもあり、2 0 名を超える舁き手達によって担がれます。山笠の土台は、釘を使わず、麻縄と部材だけで組まれています。一方で、山笠の原型を今に伝えるのが飾り山笠です。大きなものだと高さ十数メートルになります。飾りのテーマは伝統的なものからアニメキャラクターまで様々。人形師の手で細部まで丁寧に作り込まれています。廣川さんはその姿を見て「人と人の絆を結びつけ、過去と現在と未来を繋ぐ、一本の柱のようだ」と言います。
エネルギーある色彩は、見る人に元気を与える
廣川さんは「山笠の存在が空間に与えるエネルギーはとても大きい」と言います。鮮やかに彩られた飾り山に使われる人形や部材を見て、「赤は血をイメージする生命の色。金は光を放つ躍動の色」と表現。遠近法に基づいて上には小さなもの、下には大きなものが置かれます。人物や背景の大きさを高さに応じて変えることでスケールが誇張され、より大きな飾り山に見せる工夫です。廣川さんは山笠のエネルギーを子供たちに感じてほしいと言います。「先人達がデザインしたものに心が揺さぶられ、それがインスピレーションの種となり、ものづくりは時代を超えて生き続ける」と未来に想いを馳せます。
祭は、祖先たちが記憶を後世に伝えるために築き上げた〈仕組みのデザイン〉
背景用の様々な部材は、これまで手描きが当たり前でしたが、近年はデジタル技術を導入して作られることもあります。「手描きの良さと、現代ならではの効率化を取り入れ、祭は進化してゆく」と感心する廣川さん。山笠制作にあたる職人の負担を少しでも軽減し、山笠を継続していくための時代に合わせた変化です。例えば、岩こぶはデジタル出力した後に立体にするよう、展開図の仕様になっています。量産された部材は、そのまま使用されることもあれば、着色などをして調整をされることも。また組み合わせる数に応じて大きさは可変し、分解が可能。それらの多くは、次の年に再利用することが想定されています。
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
博多歴史館
博多の総鎮守・櫛田神社の境内にある施設。博多祗園山笠と博多の歴史に関する展示を見ることができる。
福岡市博多区上川端町1-41(櫛田神社内)
利用詳細は下記にお問い合わせください
092-291-2951