ラグビーワールドカップ2019で日本躍進の立て役者とも言われる、日本チームのジャージー。アスリートの身体を立体計測し、ピタリと沿うウエアが開発したのは、富山・小谷部のスポーツウエアメーカーです。1970年代、スキーの隆盛と共に「身体の動きを助ける服を」と、日本人の体にフィットする立体裁断のウエアに挑戦。試行錯誤の末、技術者が子どもの頃から毎年携わっていた「あんどん祭り」のあんどんの〈平面のデザイン画を竹細工で立体化する経験〉が成功へのヒントにつながりました。スポーツウエアの可能性を大きく広げた挑戦は現代にも継承され、最新技術を駆使しながら、日々、新しい技術開発に取り組んでいます。
須藤玲子 テキスタイルデザイナー
「最先端スポーツウエア」
須藤玲子さんは、繊維産業がさかんな北陸・富山の世界的なスポーツウエアメーカーで最先端のユニフォーム開発をリサーチ。着物など〈二次元で考えられた衣服〉文化の日本において、欧米の洋服のような〈立体的に考えられた衣服〉としてのスポーツウエアを実現した発想源には、富山の「あんどん祭」がありました。そこから現代に続く世界最先端の挑戦までを紹介します。
デザインの宝物
世界最先端スポーツウエアの発想源は富山の「あんどん祭」
クリエーター
須藤玲子 テキスタイルデザイナー
日本の伝統的な染織技術から現代の先端技術までを駆使し、新しいテキスタイルづくりをおこなう。簡単に消費されるのではない、人に感動を与えるテキスタイルをつくり続けたいという思いを大切にしている。2008年より良品計画、山形県鶴岡織物工業協同組合、株式会社アズ他のテキスタイルデザインアドバイスを手がける。
須藤さんが訪問したのは、戦後間もない1951年に富山・小矢部でメリヤス(機械編みのニット)製造所として設立され、翌年スポーツウエア専門に転身したメーカー。1964年の東京オリンピックの女子バレーボールチームのためのユニフォームや、ヨーロッパの機能的な立体裁断の布製スキーウェアを自社の技術で実現するなど、数多くの挑戦的なアイテムを手掛けてきました。
スポーツウエアに〈オートクチュールの考え方〉
1970年代、日本で初めて防寒と競技の特性に配慮して作られた、布帛製の立体裁断のスキーウエアが誕生。3D CADなどまだない時代、その開発を支えた技術者の発想の源となったのが、小矢部市伝統の「あんどん祭り」でした。小学生の頃から携わっていたあんどん作りの〈平面のデザイン画を竹細工で立体化する経験〉が、スキーウエアをはじめ、その後の立体裁断を用いたアスリート〈一人ひとりに合わせるスポーツウエア〉の誕生へつながります。須藤さんは「装飾的な役割だけでなく、個々の役割に準じた衣服が必要」といいます。
着たときに「守られている」という気持ちを、着る人が感じるウエア
日本が初のベスト8進出を果たしたラグビーワールドカップ2019。その際に代表選手が着用していたジャージーは、日本ラグビー躍進の立て役者とも言われます。最新手法の熱で布そのものを立体に成型する、立体成型を取り入れたこのジャージーは、体にぴったりフィットし、破れにくく、速乾性に優れ、軽い一着へと進化しました。骨に沿わせた形が布に与えられているさまは、〈まるで皮膜のよう〉であり、またあんどんに使われる和紙にも似ています。須藤さんはこのジャージーを「自分の体の一部になっていく」ウエアだと表現します。
デザインは使う人に力を与えるもの
日本代表選手が着用するジャージーはポジションに応じて形状や編み方が異なります。用意されたのは「フロントロー」「セカンドロー・バックロー」「バックス」の3種類。特殊な機械で熱を加え形づくられた布は、ウエアへと縫製されます。「一人ひとりの身体に合う服」を創り出す、ここにもまさに〈オートクチュールの考え方〉が貫かれています。また、このジャージー、遠目から見ると白一色のようですが、近くで見ると「矢羽根」「麻の葉」「青海波」といった日本の伝統文様が配されています。着る選手に伝統を背負わせる、これもデザインなのです。
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
津沢夜高あんどん祭
五穀豊穣・天下泰平・豊年満作を願う田祭り。高さ7m余り、長さ12m余り、竹細工に和紙が貼られた雄大なあんどんが激しくぶつかり合う「喧嘩夜高行燈引き廻し」は見どころ。
津沢夜高あんどん祭は、毎年6月第1金・土曜日に開催されます。
詳細はホームページをご確認ください
研究開発施設「ゴールドウイン テック·ラボ」
株式会社ゴールドウインの最新技術を駆使したスポーツウエアの開発を強化するための研究開発施設。
〒932-0193 富山県小矢部市清沢230
ゴールドウインテクニカルセンター生産センター1F
利用詳細はホームページをご確認ください