今回、水口さんがリサーチしたトランスアコースティックピアノは、「ピアノが持つ、アコースティックな響板の響きを生かし、楽器自体から鳴り響く音量を自在にコントロールすることができないか」という発想から開発されました。ピアノをスピーカーのように使い、その心臓部である響板全体を響かせることで、音を耳だけで聴くのではなく、全身で体感できる〈いままでにない音の体験〉を実現しています。
水口哲也 エクスペリエンスアーキテクト
「トランスアコースティックピアノ」
水口哲也さんは、静岡のピアノメーカーでトランスアコースティックピアノをリサーチ。このピアノは、デジタルの音信号を振動に変換して「響板」に伝える、電気的な装置「トランスデューサー」を搭載しています。ピアノ全体がスピーカーになるという〈いままでにない音の体験〉を生んだ、全身で体感して共嗚する〈音のデザイン〉をご紹介します。
デザインの宝物
匠と最新のテクノロジーの出会いをデザイン
クリエーター
水口哲也 エクスペリエンスアーキテクト
1965年 北海道生まれ
映像と音と触覚を融合させたビデオゲームとして革新的な作品「Rez」(2001)に代表されるように、ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、シナスタジア(共感覚)体験の拡張をめざして創作を続けている。主なプロジェクトに、TetrisのVR拡張版「Tetris Effect」(2018)、共感覚体験装置「シナスタジア X1-2.44」(2019)、アクションパズルゲーム「HUMANITY®」(2023)などがある。
「トランスアコーステックピアノ」について
アコースティックピアノならではの豊かな響きを感じながら、消音・音量調節ができるトランスアコースティックピアノ。通常のピアノとしての演奏装置であるだけでなく、音量調整や音色変更、スマートディバイスとの接続でピアノ自体をスピーカーとして使用するなど、デジタル機器の機能を併せ持っています。これは、ピアノの心臓部とも言われる響板と、トランスデューサー(加振器)によりどこまでも自然で奥深い音色と、デジタルが叶えるピアノの新しい体験のデザイン。
アコースティックという魅力をそのままに、時間や環境を気にすることなく、いつでも自由にピアノの世界に深く浸ることができます。
新しい使われ方 それを生み出すのもデザイン
アコースティックピアノは、一般的に鍵盤の先にあるハンマーで弦を打ち、振動させることで音を生みます。その弦の振動を増幅させるのが響板です。ピアノの内部には230本前後の弦や鋳物のフレームがあり、このすべてが木製の響板につながっています。トランスアコースティックピアノは、響板に「トランスデューサー」と呼ばれる振動装置を取り付け、音信号を振動に変換して、音を響かせています。これによりピアノ全体が鳴り、まるで音の中にいるような体験が生まれました。まさに全身で体感して、共嗚する〈音のデザイン〉。
理論とか知覚レベルで画一化できない、それ以上の〈匠の技〉
木製の響板の音響特性は一つ一つ微妙な違いを持っています。そのため「響板のどの部分にトランスデューサーを取り付けるか」「どのように振動させると最高の響きを奏でられるか」、ピアノごとに細やかに調整されています。最終的に、その音のバランスを調整するのは人間の手、〈匠の技〉なのです。騒音や住宅事情からヘッドホンの中にピアノの音を再現するサイレントピアノが普及していた日本。ピアノにトランスデューサーを組み合わせる方法は、課題解決への新しい回答でした。ピアノに込められた〈最高の音を奏でる匠の技〉に、電気的技術が組み合わさることで実現したのです。
伝統技術とデジタルテクノロジーの出会い
ピアノ自体が、芳醇な音を響かせるスピーカーともいえます。パイプオルガンの音も、シンセサイザーの音も、ピアノの響板を介して、木独特の柔らかく聴き心地の良い、豊かな音として感じられます。水口さんは、「耳(音)だけではなく、全身で共感覚的に体験することで、我々は本来の感動を得られる」と話します。〈感動のデザイン〉には、多様な感覚の共鳴が必要で、人間は、共感覚的に生き、世界と相互作用し続けることで、幸せを実感できるのだそう。
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
ヤマハ イノベーションロード
世界の音楽シーンを変えたシンセサイザーなど、歴史に名を刻む製品や、先進的な技術を体感できるミュージアム
〒430-8650 静岡県浜松市中央区中沢町10番1号
利用方法、見学の予約は、ウェブサイトをご確認ください