今回、注目したのは「旧帝国ホテル」(1923年竣工)に使用された「すだれレンガ」と、ケーブルなどを土中で保護する電らん管を用いて作られた「電らん管ハウス」(1955年頃竣工)です。「誰もやったことがないことをある使命感や必然性をもって形にするためには、工夫やアイデアが必要で、それをやってのけた人たちが作ったものという意味で2つはすごくつながっていると思う」と片岡さんは言います。
片岡真実 キュレーター/森美術館館長
「すだれレンガ・電らん管」
片岡真実さんは、〈それぞれの時代が求める焼き物を作り続ける町〉愛知県常滑市をリサーチ。常滑焼は中世から続く代表的な6つの窯場「日本六古窯」のひとつで、産業陶器の産地として知られています。
デザインの宝物
時代が求める陶器を生む町
クリエーター
片岡真実 キュレーター/森美術館館長
1965年 愛知生まれ
国立アートリサーチセンター長を兼務。国内外の現代美術の展覧会や芸術祭のキュレーションを務めるなど、現代アート界を牽引している。第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018)、国際芸術祭「あいち2022」芸術監督(2022)。CIMAM(国際美術館会議)では2014~2022年に理事(2020~2022に会長)を歴任。
旧帝国ホテルについて
フランク・ロイド・ライト(1867-1959)によって設計されたホテルで、その美しさから「東洋の宝石」と称えられました。1967年に解体、現在は客室棟の中央玄関部分のみ博物館明治村に移築保存されています。2004年には、国の有形文化財に登録されました。ホテル建造に使用されたタイルやレンガは常滑で製造されました。
電らん管ハウス
常滑を拠点に陶製トラフを製造していた製陶所が、電らん管製造に特化したのは1950年代。当時の社長が自ら設計して、自社の電らん管を用いて建設したのが電らん管ハウスです。建築のノウハウは無いながらも、穴の空いた構造に着目し、鉄筋を通して、コンクリートで固めて構造物にしていったそう。
常滑は産業と芸術的な表現が共存する場所
常滑の町を散策していると、レンガ造りの登窯や煙突がいたるところに見えます。「様々な場所で産業の遺産を確認できるのが面白い」と片岡さん。産業物として生み出された陶器の廃材で作られた花壇や壁などが見られる散歩道もあれば、前衛的な表現を追い求めた芸術家たちによる陶壁が設置された小学校もあります。その様子を見て片岡さんは「産業と芸術が並走している」と言います。そして、その背景にいる作り手たちの存在に惹かれる、と。目の前のものがどういう時代背景のなかで、どんな必然性で、どんな価値観によって作られたのか考えることに関心があるのだそう。
電らん管ハウス ー なんて夢があるのだろうと想像広がる
電らん管は、本来は地下に埋められて地上では見えないもの。強度があり、安価で施工のしやすさが特徴で、国内外で広く使用されています。常滑の住民にとっては馴染み深いものです。傘立て、台座、車止めなど、本来とは違う用途で町の様々な場所で再利用されています。なかでもその大きさと特徴的な外観で一際目を引くのが電らん管ハウスです。日本で唯一、陶製の電らん管を作るメーカーの社長が建てました。「こうやって視覚化したのは、人々にその存在を伝えたかった、見せたかったのでは」と片岡さんは言います。日本のインフラを地下から支えるという意気込みや思いが形として表れたものが電らん管ハウスなのです。
すだれレンガ ー 新しい挑戦と思考錯誤の賜物
現在は、博物館明治村に移築され、一般に公開されているフランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテルのエントランス。テラコッタ、大谷石といった素材に加え、表面にスクラッチ加工を施した黄色いすだれレンガが使用されています。優しい色合いが特徴のすだれレンガは、当時常滑に設立された専用工場「帝国ホテル煉瓦製作所」でつくられました。製造のノウハウがないゼロからのスタート。「経験のない状態でそれをやると決めてやり抜いたのは賞賛に値する」とレンガ製造に携わった人たちに思いをはせます。開業のその日に関東大震災が発生したものの、ホテルには大きな被害がなかったため、鉄筋コンクリートとタイル、レンガの併用は、その後の建築で広がり、常滑の生産量も増えたと言います。
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
INAXライブミュージアム
「窯のある広場・資料館」「世界のタイル博物館」「建築陶器のはじまり館」「土・どろんこ館」「陶楽工房」「やきもの工房」の6つの館からなるミュージアム。土とやきものの魅力を伝える体験教室や企画展、ワークショップを開催している。
〒479-8586
愛知県常滑市奥栄町1-130
利用詳細はホームページをご確認ください
博物館明治村
明治期を中心とする60以上の歴史的建造物を移築、保存、展示する野外博物館で、旧帝国ホテル中央玄関も移築されている。
〒484-0000
愛知県犬山市字内山1番地
利用詳細はホームページをご確認ください