五十嵐久枝 インテリアデザイナー

大阪/大阪府

「魔法瓶」

地図

五十嵐久枝さんは、大阪の天満で「魔法瓶」をリサーチ。大阪は、江戸時代からガラスの一大産地と知られていました。長崎の商人・ 播磨屋清兵衛 (はりまやせいべえ) が、オランダ人が伝えたガラス製法を学んだ後、大阪に来て大阪天満宮の前でガラスの製造を始めたことが発祥とされています。

デザインの宝物

ガラス職人たちの情熱が生んだ〈特産品〉

魔法瓶は20世紀初頭にヨーロッパで製品化されました。日本には、明治末期の1910年前後に輸入されたとされます。国産の魔法瓶が誕生したのは、1912年。電球会社に勤務していた技術者の八木亭二郎が、電球の製造技術を応用して大阪で製品化に成功したことが始まりです。その後、すでにガラス職人が多数いた大阪には魔法瓶製造業者が増え、一大生産地に成長しました。五十嵐さんは、日本国内のみならず海外でも魔法瓶のシェアで圧倒的な地位をほこるメーカーを訪ねました。

高度な職人の技が求められる魔法瓶の中瓶を製造する「ガラス手吹き作業」

高度な職人の技が求められる魔法瓶の中瓶を製造する「ガラス手吹き作業」
画像提供:象印マホービン株式会社

クリエーター

五十嵐久枝

五十嵐久枝 インテリアデザイナー

クラマタデザイン事務所を経て、1993年にイガラシデザインスタジオ設立。 商業施設から保育園等の空間デザインと家具・プロダクト・遊具等の立体デザインを主とし、「衣・食・住・働・育」の分野に関わる進行形デザインを展開している。グッドデザイン賞審査委員、キッズデザイン賞審査委員、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。

魔法瓶の秘密は二重構造とメッキ

魔法瓶の保温・保冷を支えるのは、外側を覆う外瓶と内側にある中瓶によって成す二重構造。外瓶の層と内瓶の層との間の空間が真空になっており、それが熱を遮断する重要な鍵となります。現代で一般的なステンレス製の魔法瓶においてもこの構造は変わりません。 ガラス魔法瓶の内側を見てみると、内びんの真空側の面にメッキが施されており、鏡面になっています。この加工があることで、輻射熱*を内側に反射させて熱を内側に閉じ込めることができ、より保冷・保温の効果が上がるのです。ガラスとメッキの組み合わせが、記憶に残る独特のきらめきを生み出しています。

*輻射熱:光線のように放射されることによっても移動する熱

中瓶は用途に応じて形が様々に異なる

中瓶は用途に応じて形が様々に異なる



魔法瓶の仕組み 真空の壁がある

魔法瓶の仕組み 真空の壁がある
画像提供:象印マホービン株式会社

魔法瓶の仕組み 内側が鏡になっている

魔法瓶の仕組み 内側が鏡になっている
画像提供:象印マホービン株式会社

その時代にぐっと引っ張られるような感じ

現代では目にする機会が減りましたが、五十嵐さんの子供の頃は、ガラス魔法瓶が一般的だったそう。久しぶりに目にして、家でお茶汲みのお手伝いをしたことを思い出したと言います。蓋を開けて中を覗き込むときらきらした不思議な世界。「それを見たときの揺らめきときらめきみたいなものをやっぱりすごく覚えていて、口の大きさなんかも記憶にあって」と五十嵐さん。

魔法瓶を覗き込む五十嵐さん

魔法瓶を覗き込む五十嵐さん

鏡のような銀メッキが美しい

鏡のような銀メッキが美しい


時代のニーズに応じて変化する姿

古くは大正のものから現代までの様々な魔法瓶を前に、圧倒される五十嵐さん。ひと言で魔法瓶と言っても、時代ごとのニーズや流行に応じて、そのデザインは様々です。戦時中外容器に使われる金属が不足した際は、陶器製のものが作られたり、高度経済成長期には、キッチンを華やかに彩る花模様のポットが大ヒットしたり。ガラス製魔法瓶は割れやすさが欠点でしたが、1978年に日本でステンレス製が開発されたことでその問題が解決しました。「大げさな飛躍ではないけれど、確実に日常を支えるプロダクトとして時間の経過と共に進化して今に至っている」と感心します。マイボトルを持ち歩く人が増えた最近では、軽量化や小型化がデザインにおいて重要なポイントになっています。

古い魔法瓶に見入る五十嵐さん
古い魔法瓶に見入る五十嵐さん

古い魔法瓶に見入る五十嵐さん

大正 細口魔法瓶

大正 細口魔法瓶

戦中~戦後 外容器に磁器を用いたもの

戦中~戦後 外容器に磁器を用いたもの

戦後 ポットペリカン

戦後 ポットペリカン

1970年頃 花柄ポット

1970年頃 花柄ポット

画像提供:象印マホービン株式会社

国外で広がるガラス魔法瓶

現在このメーカーで製造されているガラス魔法瓶の7割は輸出用です。主な輸出先である中東諸国では、カルダモンなどスパイスを入れる飲料がよく飲まれるため、ニオイがつきにくいガラス製の魔法瓶が重宝されるそう。また金属反応がないため、飲料の風味を損なわない点も重要なのだとか。日本製のものは保温効力が高く、耐久性もあるため、従来から評価が高いのです。インバウンド旅行客により日本製魔法瓶の認知度が上がっています。

最近の輸出向けモデルのデザインは、とてもスタイリッシュ

最近の輸出向けモデルのデザインは、とてもスタイリッシュ
画像提供:象印マホービン株式会社

どこに行けばこのデザインの宝物に会える?

まほうびん記念館

まほうびんの進化に関わる歴史などを紹介した常設展示のほかに、期間限定の企画展を開催しています。

〒530-8511 大阪市北区天満1-20-5
(象印マホービン株式会社 本社1F)
利用詳細はホームページをご確認ください

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