宮前義之 ファッションデザイナー

高知/高知県

「街路市」

地図

宮前義之さんは、高知で「街路市」をリサーチ。高知市では、毎週火曜・木曜・金曜・日曜に公認の街路市が立ちます。特に日曜市は、江戸時代から300年以上続いており、路上で開かれる市としては日本最大級の規模を誇ります。長年続く歴史には大切な理由があるのではと、宮前さんは日曜市を訪れました。

デザインの宝物

市 300年続くコミュニケーションのデザイン

高知の街路市は、江戸期の1690年、土佐藩第四代藩主山内豊昌公が、藩の政策として場所と日取りを定めてを認めたことに始まるとされています。以来、庶民の生活市として300年以上続いてきました。野菜や果物など旬の食材や地域の特産品を、生産者から直接購入できます。海産物や田舎寿司などの郷土料理、生花や工芸品まで売っている「何でも揃う」生活に寄り添った市です。

高度な職人の技が求められる魔法瓶の中瓶を製造する「ガラス手吹き作業」

画像提供:高知県観光コンベンション協会

クリエーター

宮前義之

宮前義之 ファッションデザイナー

1976年 東京都生まれ
2001年三宅デザイン事務所に入社し、三宅一生が率いたA-POCの企画チームに参加。その後ISSEY MIYAKEの企画チームに加わり、2011年から19年までISSEY MIYAKEのデザイナーを務めた。2021年にスタートしたブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」では、エンジニアリングチームを率いて、A-POCの更なる研究開発に取り組む。

日曜市をリサーチする宮前さん

日曜市をリサーチする宮前さん

市の成り立ち

明治に入り、日本の太陽暦採用に伴って高知市も曜日制を取り入れます。それまでの日切りの市をまとめて、本町筋(現在の電車通り)に始めたのが「日曜市」の起源とされています。現在の街路市の形態が整ったのは、昭和元年のこと。月曜日を除く毎日、市内の6箇所で曜日を定めて開かれるようになりました。しかし、第二次世界大戦によって高知市は焦土と化し、街路市は休止状態に。昭和23年に日曜市が復活し、その後順次開市場所・規模などを拡大して、今日に至ります。

明治時代の日曜市。現存する街路市の写真で最も古い記録。

明治時代の日曜市。現存する街路市の写真で最も古い記録。
画像提供:高知市立市民図書館所蔵 寺田正写真文庫

日曜市は〈余白〉だらけ

早朝、宮前さんが向かったのは高知城下のメインストリートで開かれる日曜市。 追手門 (おうてもん) から東へまっすぐ伸びる片側2車線を埋めつくし、近郊農家を中心に、およそ300店が約1kmの道筋に立ち並びます。
日曜市の出店者は地元の「生産者」であることがひとつの条件。宮前さんは作り手として「相手に届けるまでがデザイン」と話します。よいデザインには〈余白〉が大切だとも。日曜市には「心地よい余白があって、お客さんがそこにスッと入っていける。商品がなくなったところで店じまい」と、モノを介して人と人の繋がりが生まれている様子を目にします。そこには自然と生活に寄り添う営みがありました。

柑橘を売る店主にインタビューする宮前さん

柑橘を売る店主にインタビューする宮前さん

日曜市の住所録。店ごとに決められた「店番号」は、毎週同じ場所に出店する店を示す番地のようなもの。

日曜市の住所録。店ごとに決められた「店番号」は、毎週同じ場所に出店する店を示す番地のようなもの。
画像提供:高知市

店の奥行きは1.5m、間口は平均2m。それぞれ思い思いのテントを手際よく広げて開店。

店の奥行きは1.5m、間口は平均2m。それぞれ思い思いのテントを手際よく広げて開店。


全部が正直、すごい信頼関係がある

野菜を売る店の前で立ち止まった宮前さん。たくさんの人が集まって売り買いする様子を見ながら、「飾らない、全部さらけ出している感じがいい」と感心します。作った人がいくらいいものを作ってもダメ。どう届けるかが大事であり、「作り手と受け手の信頼関係を作るためにはコミュニケーションが欠かせない」と話します。客と店主は季節のおいしいものや、食べ方を話すこともあれば、「元気?」「今日これある?」など、何気ない会話も聞こえてきます。「みかんにしても野菜にしても、モノだけ見たら一緒かもしれない。でも作った人の話を聞くと違って、料理して食べる時間も変わる気がする」と、宮前さんは売り買いの原点にあるコミュニケーションを見ました。

冗談混じりに何気ない会話を交わす馴染みの客と店主。

冗談混じりに何気ない会話を交わす馴染みの客と店主。

品物をただ置いてるだけ。でも「らしさが」店には溢れている。

品物をただ置いてるだけ。でも「らしさ」が店には溢れている。

人間も動物も常連さん。

人間も動物も常連さん。

店主自ら配達も。お客と店主のおおらかなやり取りがあちらこちらで。

店主自ら配達も。お客と店主のおおらかなやり取りがあちらこちらで。

〈積み重ね〉が暮らしを豊かにしていく

店の軒先には、店番号や出店者の氏名が示された「街路市専用許可書」が吊り下げられています。許可を受けた店は、廃業しない限り、代々同じ番号を受け継ぎ、出店場所も変わりません。宮前さんは言います。「いつも同じ人と顔を合わせて話したい。そういうことの積み重ねが大事」なのだと。こうした「いつも」は、市役所では全国でも珍しい専門部署の街路市担当はじめ、市役所と連携するシルバー人材センター、交通整理のガードマン、高校生ボランティアなど、たくさんの人々によって支えられています。「ものの外側の色とか形じゃなくて、もっと見えない、人の姿や歴史がデザインとしての価値。 それがここにあるから長年続いているのだろう」と時代を越えて続く市ならではの姿を捉えます。

店先の会話に思わず笑顔が溢れる宮前さん。

店先の会話に思わず笑顔が溢れる宮前さん。

季節のもの、地元のもの、普段見られないものが売られているのがたのしい。

季節のもの、地元のもの、普段見られないものが売られているのがたのしい。
画像提供:高知市

手書きのポップ。ダンボールや牛乳パックの切れ端に味のあるキャッチコピー。

手書きのポップ。ダンボールや牛乳パックの切れ端に味のあるキャッチコピー。

どこに行けばこのデザインの宝物に会える?

土佐の日曜市(街路市)

新鮮な野菜や果物はもちろん、まんじゅう、田舎寿司、いも天といった食べ物や、土佐刃物から植木まで様々なものが売られている生活市。
毎週日曜日開催(1月1日・2日、8月10〜12日を除く)
6時頃から14時頃まで

場所 高知市追手筋
高知市役所 商業振興・外商支援課街路市担当
https://www.city.kochi.kochi.jp/site/gairoichi/

MOVIES