深澤直人 プロダクトデザイナー

大田/島根県

「石州瓦」

地図

深澤直人さんは、島根の「石州瓦」をリサーチ。訪れたのは、大田市街地南西部の山間に位置する大森町、世界遺産に登録された石見銀山遺跡の中心部です。江戸時代の武家屋敷や代官所跡、歴史的な建造物や文化財が当時の面影を今も残しており、重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

デザインの宝物

瓦が生み出す町の〈雰囲気〉

島根県西部で生産される石州瓦は、三州瓦(愛知県)、淡路瓦(兵庫県)と並び、日本三大瓦のひとつ。島根の山間部は雪深く、日本海に面した地域は海の荒波にさらされ、しばしば台風の通り道になるため、厳しい環境に耐えられるように頑丈な瓦です。また釉薬由来の赤茶色が象徴的で、瓦屋根が並ぶ家並みは大森町に独特の景観を作り出しています。

赤茶色が特徴的な石州瓦

赤茶色が特徴的な石州瓦
画像提供:亀谷窯業

クリエーター

深澤直人

Photo by Yoshiaki Tsutsui

深澤直人 プロダクトデザイナー

1956年 山梨生まれ
セイコーエプソンを経て、1989年渡米。ID Two (現・IDEO サンフランシスコ)でデザインの仕事に従事した後、1996年帰国。2003年NAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。現在、国内外のリーディングカンパニーやブランドのデザイン・コンサルティングを多数手がけている。日用品や電子精密機器からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで、幅広い領域でデザインを手がける。

大森町の家並み

大森町の家並み
画像提供:島根フィルムコミッション

町並みに調和を生み出す瓦の存在

大森町の町並みを少し小高いところから見下ろすと、家々の赤茶色の屋根が目の前に広がります。その景色を見た瞬間、「これはすごい」と深澤さん。「この集落のまとまりとして、瓦が命なんだ」と、町の一体感の理由を瓦に見ます。「公共のものとそれぞれの個々の生活が全部一体化してるのがすごい。積極的に暮らさないとこれは維持できない」と古いものを活かしながら生活する町の人々へ敬意を表します。

地産地消 土と釉薬

石州瓦には地元で採れる素材が使われています。
ひとつは、瓦そのものを形作る粘土。粘り気があるため可塑性が高いのが特徴です。
釉薬の原材料に使われているのは、 来待石 (きまちいし) 。松江市宍道町来待地区で産出される凝灰質砂岩*です。軟質で加工しやすいため、粉砕して水を加え釉薬として用います。「そこにある自然の力を借りて人間が生み出したもの」だからこそ、その土地の風景に馴染むのだと深澤さんは言います。

*火山堆積物が海底に堆積して形成された岩

瓦の素材となる粘土

瓦の素材となる粘土
画像提供:亀谷窯業

来待石採石場跡(「来待ストーン」敷地内)

来待石採石場跡(「来待ストーン」敷地内)
画像提供:モニュメント・ミュージアム 来待ストーン

焼成温度と頑丈さ

石州瓦の頑丈さを支えるのが焼成温度です。1350度と非常に高温で焼きしめられているため、硬くて頑丈です。また、気孔が少なく水をはじくため、雨や雪、さらには塩害にも強いのです。
瓦を持ってみるとその重量に驚きます。「触って理解することの大切さ。見ていいと思うものがデザインと思われているけれど、最終的には触って、感じていいってところまでいかないと理解したことにならない」と深澤さん。重い屋根を支える家の構造にも強度が求められ、結果的に頑丈な家ができるそう。

石州瓦は耐久性が高く、水を通しにくい

石州瓦は耐久性が高く、水を通しにくい

触ると分かることがある

触ると分かることがある

その土地の魅力を守りたい

都会では見ることが少なくなった瓦屋根の家。製造に手間がかかるため、ほかの屋根材と比べ価格が高く、施工費もかかることがその大きな要因です。
「標準化されてしまった建物が並ぶ都会で見ることはもうできない、瓦屋根のある風景。その姿が人の意識から、体験からなくなってしまっている」と日本の景観が画一化してしまうことに対し、深澤さんは警鐘を鳴らします。大量生産や規格化が進んだことで私たちが手に入れた豊かさもある一方で、失われていくものもあるのです。「デザイナーとして、その魅力を広めるために何ができるか考えたい」と深澤さん。

町を散策する深澤さん

町を散策する深澤さん

石州瓦が独特の「雰囲気」を生み出している
石州瓦が独特の「雰囲気」を生み出している

石州瓦が独特の「雰囲気」を生み出している
画像提供:島根フィルムコミッション

どこに行けばこのデザインの宝物に会える?

町並み交流センター

石見銀山大森町は、島根県大田市にある地区です。 約400人の人々が、昔ながらの景観を暮らしながら保存しています。町の中心にある旧大森裁判所跡を利活用した「町並み交流センター」では、銀山の歴史と暮らしを分かりやすく紹介しています。

島根県大田市大森町イ490
利用詳細はホームページをご確認ください

町並み交流センター

画像提供:(公社)島根県観光連盟

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