ノロの祭祀に、12、3歳の少女が初めて参加する際に着たと考えられている服が「ハブラギン」です。聖なる存在も悪霊もやってくる祭祀の場で、まだ霊力の弱い少女の身を守るための様々なデザインが施されています。
森永邦彦 ファッションデザイナー
「ノロの装束 ハブラギン」
森永邦彦さんは、奄美大島の女性司祭・ノロ(祝女)の装束であるハブラギンをリサーチ。ノロは、神々に祈りを捧げ集落の幸せを願う公的な存在で、その文化の痕跡が、500年以上経った今も奄美に残されています。目にみえない存在を身近に感じながら生きる人々が生み出してきた服と出会いたいと、森永さんは奄美に向かいました。
デザインの宝物
着る人を守る意思が生んだデザイン
クリエーター
森永邦彦 ファッションデザイナー
1980年 東京生まれ
大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりをはじめる。2003年ANREALAGEとして活動を開始。ANREALAGEとは、A REAL‐日常、UN REAL‐非日常、AGE‐時代を意味する。東京コレクションで発表を続けた後、2014年よりパリコレクションに進出。
2020年 伊・FENDIとの協業をミラノコレクションにて発表。2021年には、ドバイ万博日本館の公式ユニフォーム、2023年にはビヨンセのワールドツアー衣装をデザイン。
ハブラギンのデザインについて
ハブラギンは、多くの人の着物の端切れを集めて作られています。ひとつひとつの布が三角形なのは「祖先の霊が乗っている」という蝶や蛾、つまりハブラ(ハベラ)の現れであり、浮遊している人間の霊魂を表していると言われています。森永さんは、そこから目には見えない精神的なものさえもデザインに落とし込もうとする所作を感じ取りました。
ハブラギンを身につけることは、多くの存在に守られること
ハブラギンは、森永さんのデザインの原点であるパッチワークを思い起こさせます。柄と無地、シルクとコットン。森永さんの洋服同様、ハブラギンも様々な布の端切れが縫い合わさってできています。「ハレとケ、この世とあの世、見えているものと見えていないもの」、そうした“日常と非日常”の境目を行き来する服作りをしてきたと森永さんは言います。ハブラギンは肉体を超えた衣服であり、着ることは、霊力をまとうこと。多くの存在に守られると考えられてきました。
人知をこえた自然の中で生きていくために、願い祈る心
ハブラギンは着る人がしっかり生きられるようにと、針と布と糸で作られたデザインであり、日本人が大切にしてきた見えないものと向き合い「信じて形にする」という〈魂のデザイン〉だと森永さんは語ります。ハブラギンによっては「二目落とし」というステッチが装飾のように施されています。長い一目のあとに小さく二目入れるステッチの繰り返しには、魔払いの意味があると考えられており、悪いものが入ってきそうな首回りや襟元に配されることが多いです。本来一目で縫うところをあえて二目で縫うという細部への畏敬の念を感じ、〈神は細部に宿っている〉ことを実感すると森永さんは言います。
ハブラギンに込められた思い、そのデザインの精神性を受け継ぎたい
森永さん自身が目指してきたのは「服を長く着るために補修するというだけじゃない、優しさやぬくもりを感じるような攻めたパッチワーク」。しかし奄美で出会ったハブラギンは、そんなの森永さんの概念をはるかに超えた存在だったそう。服のデザインとは、ただ着る人を美しく見せるためではなく、〈命への願い〉、〈人が生きることに対する祈り〉が現れるもの。森永さんにとってハブラギンは、ファッションの前提である「誰かのために」という想いの極致が生んだデザインといえるのです。
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
瀬戸内町立図書館郷土館
図書館には、一般図書に加え、島尾敏雄の著作や遺品が展示されているコーナーが設置されている。郷土館では、瀬戸内町の歴史や文化、伝統芸能などに関する資料を見ることができる。
〒894-1508
鹿児島県大島郡瀬戸内町古仁屋1283-17
利用詳細はホームページをご確認ください
宇検村生涯学習センター「元気の出る館」
歴史民俗資料展示室では、倉木崎海底遺跡の遺物及びノロ関係資料等を展示している。
〒894-3301
鹿児島県大島郡宇検村大字湯湾2937-83
利用詳細はホームページをご確認ください