江戸幕府の北前船航路の整備によって隣接する小木港が寄港増になると、商業活動が盛んになり、村には船大工などの造船技術者が移住し、明治中期まで北前船産業の基地として繁栄しました。船板などを利用した建造物が密集する町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。西沢さんは、海と密接に関わる人々が住む町の風景に、独自の文化や生活を見ました。
西沢立衛 建築家
「佐渡・宿根木集落」
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西沢立衛さんは、新潟県の佐渡島の最南端にある入り江に面した小さな集落「宿根木」をリサーチ。宿根木は、中世から日本海海運の中継地として、旅客や貨物を運んで回る廻船業を営む人々が多く居住した浦都市で「佐渡の富の三分の一を宿根木が集めた」と言われるほどに栄えました。
デザインの宝物
〈海の民の合理性〉あふれる町並み
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高台から見た宿根木の町並み
クリエーター
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西沢立衛建築設計事務所
西沢立衛 デザイナー
1966年 東京都生まれ
西沢立衛建築設計事務所代表。1995年に妹島和世と建築ユニットSANAA設立。環境と一体となる軽やかな建築で世界的に知られ、建築界のノーベル賞であるプリッカー賞受賞。展覧会や家具デザイン、空間構成など幅広く活動している。近作に「済寧美術館」(2019)、「熊本駅白川口駅前広場」(2021)、SANAAとしての代表的な仕事に「金沢21世紀美術館」(2004)「ルーヴル・ランス」( 2012)などがある。
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原寸大に復元された北前船 佐渡国小木民俗博物館
宿根木の町のつくり、社会の在り方
保存地区内の建造物は220棟にのぼり、密集した家屋のほとんどが二階建てです。建物の外観は海の潮風から家屋を守るために板張りで、通りに面した方面に開口部( 扉、窓、庭など)がなく、屋根の庇もないため、高い壁だけが見えます。「家屋がまるで船のように閉じている。面的な作られ方をしている。造船技術が建築技術に影響を及ぼしているのだろう」と西沢さんは指摘します。また外観が互いに似ている家々を見て「全体としての一体性があり、仕事を中心とした連合体、職能集団の一体感と秩序を感じる。彼らの社会が町を形成しているように思える」と言います。
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木造の家々が立ち並ぶ宿根木の町の様子 撮影:西沢立衛
三次元的な家のかたち
宿根木の家々を見ていくと、カーブがついていたり、屋根に急な勾配がついていたりと、立体構造が目立ちます。「従来の日本建築は平面的なものなのだけれど、宿根木の建物は、屋根の形や外壁から〈三次元的に考えられている〉ことがわかる」と造船の技術の影響を見て取ります。船のような外観で知られる「三角屋」を訪れました。「室内には物がなく、清潔。押し入れも仏壇もあるにはあるが、置き型で、持ち運びできる。まるで船内のよう」。西沢さんは内観からも船とのつながりを感じます。
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屋根の構造について語る西沢さん
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町のいたるところに船大工の痕跡が見られる
〈宿根木的な光景〉から分かること
西沢さんが注目したのは建物だけではありません。建物と建物の隙間に目を向けます。「思わず覗き込んでしまう。まるで彫刻を見るよう。こんなにきれいな隙間は日本の町ではめずらしい」と感想を語ります。また、そこに〈関係性に気を配っていた集落〉の考えが反映されていると。
さらに、家々が密集し人口密度は高そうだけれど、複数の世帯が住む長屋がないことに気がつきました。家はそれぞれ一戸建ての「単位」になっていると指摘します。その様子がいくつもの小さい船が集まっている光景を連想させるそうです。
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西沢さんが撮影した隙間あれこれ 撮影:西沢立衛
どこに行けばこのデザインの宝物に会える?
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西沢立衛(建築家)
「佐渡・宿根木集落」〈海の民の合理性〉あふれる町並み(佐渡/新潟県)
DESIGN MUSEUM JAPAN展 集めてつなごう 日本のデザイン
国立新美術館 2022年
佐渡国小木民俗博物館
佐渡ゆかりの民俗学者・宮本常一氏の提案により設立された博物館。主に民俗資料を展示しており、南佐渡の漁業や懐かしい暮らしのアイテムなど、その数約30,000点余り。実物大の北前船「白山丸」も展示されている。
〒952-0612
新潟県佐渡市宿根木270-2
利用詳細はホームページをご確認ください
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